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【バイオパンク:マーカス・ウォールセン】バイオハッカーは世界を変えられるか

科学 科学-生物学
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「分子生物学の研究や血液・遺伝子検査はラボや病院でしかできない。」そんな常識が壊されてきているのをご存知でしょうか?

《目次》

 

自宅で利用できるバイオビジネスの例

既に事業化されている例もあります。どれも最近のことなので、報道やネットニュースでみて記憶に新しい方もいらっしゃるのでは。 

血液検査

フォーブス誌によると個人資産45億ドル(1ドル119円で約5380億円)で「第2のスティーブ・ジョブズ」と呼ばれる女性起業家、エリザベス・ホームズ。31歳と若く、余計な情報でちゃちゃ入れると美人だけど声が太い彼女が起業したのが血液検査サービス会社「セラノス(Theranos)」です。セラノスのサービスを利用すれば、自宅で血液1滴から血液検査ができます。

 

会社ホームページをみてみると検査項目はオーダーメイドで100種類以上。例をあげると、気になるコレステロール(HDL Cholesterol; LDL Cholesterol; Triglycerides; Lipid Profile; Cardiac Risk Assessment)は旧来のラボでは17.00ドルのところ、2.96ドルでチェックできます

https://www.theranos.com/test-menu 

遺伝子検査 

Googleのセルゲイブリンの妻アン・ウォジスキが立ち上げた23andMeが有名。全120種の遺伝子項目を調べることができ、1項目あたり約161円という従来の遺伝子検査の約50分の1という安さで病気の潜在的リスクが分かるのが売りでした。

しかし、FDAから規定を満たしていないといわれて遺伝子検査キット販売の禁止を命じられます。それでもしばらく販売を続けるんだから、異業種からの参入はまさに常識破り!業界人なら怖くて当局には逆らえません。今は、平和にFDAから認可された検査項目のみに限定して販売しているようです。

国内ではこんな会社がサービス提供中または開始検討中で、一大市場が築かれつつあります。

  • Genelife(ジェネシスヘルスケア株式会社)
  • Genequest
  • MYCODE(DeNA) ※まさかDeNAがDNAを扱うことになるとは・・・
  • ファンケル
  • DHC
  • ドクターシーラボ

他にもあります。医療業界としては異例のスピードで市場が伸びてるといえますが、健康食品会社が遺伝子検査で体質を調べて、自社製品を売ろうってパターンが多いところは純粋に医療業界と言えず何だか少し残念。

 

バイオハッカーの事例集

上にあげたのは既に事業化に成功した例です。対して、本日の書籍『バイオパンク』は事業化前段階の多い事例集と位置づけられます。

コンピュータ業界さながら自宅ガレージで遺伝子をいじる「バイオハッカー」の例が多く紹介されています。

が、あえて違う例からの引用。「遺伝子組み替え作物はだれのため?」という章から、大胆に途中を飛ばしつつ抜粋します。

二十世紀後半にはDNAを直接操作して遺伝子を変えられるようになった。農業には新しいビジネスモデルが生まれた。遺伝子組み換え種子を作成した企業は特許をとり、コンピュータ・ソフトウェアや新型ハイブリッド・カー用エンジンのように「売る」ことにしたのである。一方、農家は、企業に遺伝子組み換え種子のライセンス料を払うかわりに、害虫や除草剤に強い作物を育てることができる。

(中略)

インドの農民たちは西洋の多国籍企業に自分たちの生活を全面的に左右されることになり、伝統や宗教に根ざした地域社会は崩壊する。また、モンサント社に種子のライセンス料を支払うことになれば、すでに借金を抱えている農民はさらなる金銭苦に陥ることになる、として。

(中略)

グジャラート(店長注:インドの州)では、賛成派も反対派も予想していないことが起こっていた。2000年、地元で評判のナブラバートという種子会社が、ナブラバート151という交配種の綿花種子を売り出した。

(中略)

DIY生物学の真価はそれが「持たざる者」の手に渡ったときに発揮される、と信じるバイオハッカーはグジャラートの例に元気づけられた。

農民たちは生活のために、伝統的な慣習ではなくテクノロジーを選択しました。しかもグローバル経済の覇者モンサントに首根っこをつかまれることなく

この革命ともいえるべき出来事は、1つの遺伝子変異を1社の特許と純粋にはいえないバイオ業界の虚をインド企業がついたことで実現しました。

最先端の遺伝子組み換え技術が、貧困層の手に渡って真価を発揮する。すごい事例です。

 

DIYバイオは世の中にインパクトを残せるのか

『バイオパンク』は堀江貴文さんの『ネットがつながらなかったので仕方なく本を1000冊読んで考えた』で紹介されていて、それがきっかけで読みました。

堀江さんは著書の中でこう述べています。

本全体の論調としても、バイオハッカーの成果はあまり過度な期待をしていないようにも見える。でも、僕は、大いに可能性を感じている一人だ。

『バイオパンク』は「バイオハッカーの成果はあまり過度な期待をしていない」トーンがあると書いているが、その通りの印象です。

なぜか?それは「ラボで既に達成済みのことが自宅でもできる」だけのコンセプトが多いからです。サイズを小さく、安価にするだけではイノベーションではありません。

いや3Dプリンターは?確かに3Dプリンターはサイズを小さく安価にすることで多くの利用者のイノベーションを誘発しています。これは「俺でも何かできそうだな!」とイメージができるからでしょう。

では、「遺伝子解析が自宅でできるよ」と言われて何が自分にできそうかイメージできますか?何かイノベーションが起こせそうですか?分子生物学の専門家であればラボで研究するので、自宅で研究する意味はありません。素人目に「俺でも何かできそうだな!」という期待がなければ、DIYバイオでイノベーションは生まれないと思うのです。

 

まとめ

バイオハッカーは①プロダクトをつくり、②顧客の知識・意識レベルをあげるため啓蒙し、③倫理問題に立ち向かって規制の壁を越えていく必要がありそうです。