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【戦後史の正体:孫崎享】事実か陰謀論か、米国の圧力を軸にした外交論

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『戦後史の正体』は「米国からの圧力」を軸に、日本の戦後史を読み解いた本だ。

こういう視点から書かれた本は、いままでありませんでしたし、おそらくこれからもないでしょう。「米国の意向」について論じることは、日本の言論界ではタブーだからです。

《目次》

 

孫崎享(まごさきうける)

著者の孫崎享は1943年生まれ。1966年に外務省に入省し、ロシア語を学んだことがきっかけで当時西側から「悪の帝国」とよばれたソ連に5年、「悪の枢軸国」イラクとイランに3年ずつ勤務した。その後、日本の情報部門のトップである国際情報局長も勤めあげた人物だ。

 

「自主」「追随」という観点で首相を分類

戦後の日本外交を「米国からの圧力」を軸に、それに対抗する「自主」路線と、米国の言われたとおりに動く「追随」路線の2つに分類して本著は展開していく。

自主派

重光葵、石橋湛山、芦田均、岸信介、鳩山一郎、佐藤栄作、田中角栄、宮沢喜一、細川護煕、鳩山由紀夫

対米追随派

吉田茂、池田勇人、三木武夫、中曽根康弘、海部俊樹、小渕恵三、森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三、麻生太郎、菅直人、野田佳彦

一部抵抗派

鈴木善幸、竹下登、橋本龍太郎、福田康夫

一部抵抗派は、基本は「追随」だが「自主」の顔もときおり見せた首相たちだ。このように「自主」路線と「追随」路線のせめぎあいこそが戦後の日本外交の正体だという。

一目見て分かるとおり、長期政権や複数回選ばれた首相は基本「追随」路線だ。

一方、自主派の多くは米国との関わりの深い東京地検特捜部などにより仕掛けられた事件で失脚していく。

芦田均は「昭和電工事件」、田中角栄は「ロッキード事件」、竹下登は「リクルート事件」、橋本龍太郎は「日歯連事件」、首相になるはずだった小沢一郎は相当警戒されたのか事が起こる前に仕掛けられた「陸山会事件」によって。どの事件も「軍隊」か「中国」という米国にとっての地雷を踏んだ結果という共通項がある。

 

安全保障への米国の基本スタンス

米国の要求する「われわれ(米国)が望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保する」ことを、吉田首相は講和条約に書けず、安保条約にも書けず、行政協定にこっそり書きこもうとしました。しかし宮沢の指摘によってそれもできず、ついには岡崎を使って「交換公文」という形で、だれにもわからぬようこっそり認めてしまったのです。事実上の密約です。

側近の岡崎勝男(この成果で外務大臣に引き上げられる)を使った、吉田茂による秘密裏の外交について書かれた場面だ。宮沢喜一は抵抗したが、結局阻止できなかった「岡崎・ラスク交換公文」を後に痛烈に批判している。

「われわれ(米国)が望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保する」というのは「ダレスの恫喝」で有名な当時の国務省政策顧問ジョン・フォスター・ダレスのことばだ。

おもわず身震いするのは、安全保障への米国の基本スタンスは「いまでも変わっていない」孫崎さんが論じているところだ。真実であれば、この米国のスタンスを前提に考える必要があるのだが、今の政治家はどうなのか。

本著が出版された2012年当時は「対米追随派」に分類されていた安倍晋三。周囲に反対されても信念を貫いた祖父の岸信介に自分の姿を重ねて「自主派」に変貌しないのだろうか。新安保と集団的自衛権のアナロジーに陶酔しているかのようだが、米国の言いなりであれば「それ逆ですよ」といいたくなる。

正しい判断であれば結果論として良いのだが、それはこの先の歴史が決めることだ。

 

陰謀論と受け取るか

孫崎さんの論点を陰謀論だと受け取るか。戦後の裏工作、スパイは証拠を残さないが実在したのは事実だろう。

「信じるか信じないかはあなた次第」というのはコンテンツを配信する立場としては無責任なことばだ。この議論に関してぼくは門外漢の読者の一人にすぎないので、いろいろな受け止め方があるのが実際だとあけすけに言ってしまうが。