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【ファスト&スロー:ダニエル・カーネマン】ヒューリスティックってなに?

科学 科学-行動経済学
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行動経済学の本を読んだことがあるだろうか。

行動経済学(こうどうけいざいがく、英: behavioral economics)、行動ファイナンス(英: behavioral finance)とは、典型的な経済学のように経済人を前提とするのではなく、実際の人間による実験やその観察を重視し、人間がどのように選択・行動し、その結果どうなるかを究明することを目的とした経済学の一分野である。 

行動経済学 - Wikipedia

ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』も有名で面白いが、今回紹介するダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』は間違いなく行動経済学を代表する一般書の一つだ。分量の多い上下巻構成でありながら、読み出したら止まらない。しかもノーベル経済学賞受賞者の本とあって背景にある専門性は申し分のない名著だ。

《目次》

 

ノーベル経済学賞の心理学者

著者は心理学者ながら2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン。人が損失と利得をどのように評価するのかを説いた「プロスペクト理論」や、過去の経験をピーク時の感情で評価する「ピーク・エンドの法則」など、専門家でなくても分かりやすく興味深い行動経済学の理論を構築した泰斗だ。

 

利用可能性ヒューリスティック

カーネマンは、思い出しやすい情報や入手しやすい情報に意思決定が影響されることを「利用可能性ヒューリスティック」と呼ぶ。

「スティーブはとても内気で引っ込み思案だ。いつも頼りにはなるが、基本的に他人には関心がなく、現実の世界には興味がないらしい。もの静かでやさしく、秩序や整理整頓を好み、こまかいことにこだわる」。さてスティーブは図書館司書でしょうか、それとも農家の人でしょうか?
スティーブの性格が司書のステレオタイプにぴたりと一致することは、誰もがすぐに思いつく。だがこの質問に答えるためには、同じぐらい重要な意味を持つ統計的事実があるのだが、こちらはまずまちがいなく無視される。あなたは、アメリカでは男性の司書一人に対して農業従事者は二十人以上いるという事実を思い出しただろうか。農家の人がこれだけたくさんいれば、「もの静かでやさしい」男は、図書館で座っているよりもトラクターを運転している可能性のほうが高い。ところが実験の参加者はこうした統計的事実を無視し、ステレオタイプとの類似性だけを問題にした。

人はこのように、過去の経験や、時にはメディアで頻繁に目にする情報に引っ張られてしまい、利用可能な情報のみから間違った判断をしてしまう癖がある。

あなたも思い当たる節があるのでは?

日々の生活や仕事で下している判断は、案外適当で自分勝手な根拠によっているのではないだろうか。真実は直感的な印象や、一見疑いも持たない常識(という名の経験を基にした個人的判断)にあるのではなく、統計的なデータにある場合が多い。

 

統計リテラシーが重要

正確な意思決定やデータ収集をするためには統計リテラシーが重要だ。

誤差、各変数間の因果関係、バイアスをよくよく考慮しないと、主張をはき違えてしまったり、データがもつ重要な意味を見過ごしてしまう。例えば、変数Aと変数Bが比例して高値を示す場合、以下3つのパターンのいずれかを考える。この分析を怠ると、間違った解釈に基づいた全く意味のない行動をとってしまうかもしれない。

  • 「A→B」の因果関係
  • 「B→A」の因果関係
  • A、Bに因果関係の順番はなく、ただ連動しているのみ

このあたりは東京大学医学系研究科の統計部門(医療統計の業界では有名な教室)で学んだ西内啓著統計学が最強の学問である』が詳しく、かつ分かりやすい。

 

人間の思考自体を否定しかねない理論

本著でも触れられているが、ヒューリスティクスとバイアスの理論は人間の思考自体を否定しかねない。

しかし統計データが得られない場合、結局は人の経験に頼らざるを得ないのが事実だ。例えば、自分がこの本を選び、その中の特定のセンテンスを引用し、こうやって解釈を書いていること自体も、過去の経験が大きく影響しているはずだ(当然、これは統計解析できない)。

人の考え方とか抽象的なものの多くは、統計的に測ることはできない。では統計の代わりに、われわれを真実に近づける要素は何か?

それは他でもない、経験の絶対量だ。読書も含め、様々なことに興味をもち、専門家とは言わないまでもそれに近い思考が広い範囲でできるようになれば、あらゆる判断の精度が上がっていくことだろう。