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【完全な人間を目指さなくても良い理由:マイケル・サンデル】筋肉パンパンなリーグ、観たい?

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マイケル・サンデル『完全な人間を目指さなくても良い理由』はスポーツ選手、バイオ系、デバイスや人工知能系の業界で働いている人に薦めたい一冊。

《目次》

 

トレーニングと遺伝子操作によるエンハンスメント

トレーニングと不正な増強(エンハンスメント)の線引きは難しい。

ステロイドを投与することは明らかにドーピングだ。わかりやすい。他にも、国際オリンピック委員会(IOC)は、腎臓で生成される赤血球の産生刺激ホルモンであるエリスロポエチンの注入など、赤血球濃度を増して選手のスタミナを高める手段を禁止している。

では、高地トレーニングはどうだろう?

高地トレーニングを行うと選手の赤血球濃度が増して酸素の供給量が高まる。エリスロポエチンと同じ効果だ。IOCは酸素濃度を押さえたハウスの中で行う「人工高地トレーニング」を禁止するかどうかの決定を下す予定だと、本著には書いてある。

この文脈から考えると、禁止するかどうかは「人工」であるかどうかに関わってくる。確かにトレーニングで真面目に能力(赤血球量を含め)を上げることを禁止したら、何のために選手はトレーニングをするのか分からない。その「真面目さ」に経緯を払って、「人工」のモノ(薬剤だけでなく状況も)を禁止するポリシーなのだろう。

ちなみに、タイガー・ウッズはもともと視力が悪かったが、レーシック手術を受けてか成績が格段に伸びたそうだ。うーん。同じ「人工」であっても「治療」の枠に当てはまる行為は許されそうだ。

まとめると、能力のエンハンスメントが禁止される基準は「人工」であるかどうか。「人工」であればそれが「治療」であるかどうか。どちらともYESになった行為が禁止される、といった複合的なフローがこれからの時代の基準となるだろう。

 

デザイナー・チルドレン

「デザイナー・チルドレン」という言葉がある。例えば音楽の才能とか運動能力とか、生まれたときからある種の才能を持つように遺伝子操作された子どものことだ。

今はまだ少なくとも大っぴらに行われていないが、既に技術的には十分可能だ。

例えばミオスタチンという筋肉成長を阻害するタンパクが先天的に欠損した人がいる。そういう先天性欠損の人がボディビルダーで実際にいたりするのだが、これを人工的に遺伝子操作でつくり上げたら違反なのか?

実際に、効率的に大量の肉を得るために、ミオスタチン遺伝子をカットしたウシがつくられたりしているので技術的には可能だ。

能力のエンハンスメントの基準からしたら「人工」はダメで「天然」は良いということになるが、もしかしたらクローンは認められないけれどデザイナー・チルドレンは認められる、という時代が来る可能性もある

 

スポーツリーグは2つに分かれるのか

成長ホルモンで筋肉パンパンのスプリンターのための大会をひとつと、放し飼いののろまたちのための大会をもうひとつ別につくればよい。

デザイナー・チルドレンがOKの時代では、努力せずに筋肉パンパンの理想的ボディをだれでも獲得できる。しかも、技術的なハードルを乗り越えてリスクを極限まで低くできれば、危険を冒さずに薬剤や遺伝子操作を手軽に利用できるようになる。

そうなれば、確かに本著に書かれているような極限まで能力を人工的に高めたスプリンターリーグと、才能とトレーニングでつくりあげたナチュラルリーグの2つにスポーツリーグが分かれてくるかもしれない。

 

筋肉パンパンなリーグを観たいか

先ほどの引用は『ワイヤード』誌の記者のことばなのだが、この記者は「筋肉隆々リーグのほうが完全にナチュラルなリーグよりも、高いテレビ視聴率を獲得すると確信している」ようだ。

確かに人工的に強化された選手たちの派手なプレイを観た後で、ナチュラルな選手のそこそこスゴいプレイを観たら感動は薄れそうだ。

しかし、これは漠然とした感覚でしかないのだが、僕自身は筋肉隆々リーグにはあまり魅力は感じない。なぜなら、そこには「ストーリー」がないからだ。努力し、それでも伸び悩み、挫折も味わいながら表舞台に立っている背景があるからこそ観客はスポーツに魅せられるのではないだろうか。一足飛びに能力だけ得てしまったら、その結果がいくらスゴいものであっても感動などしない。僕が観たいのは改造人間の完全無欠な結果ではなく、生身の人間の泥臭いストーリーなのだ。

このあたりの感覚は個人で違いそうだが、読者のみなさんはどうだろうか?

 

便利さ優先なら改造人間は許容

ただ、「スポーツ」と「日常生活」では180度判断基準が違って、便利さ優先でいっら改造人間は全然許容できる。ウェアラブルデバイスをつけて快適な生活を送りたいし、人工知能は否定せずに活用しないともったいない。

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