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『インベスターZ』にハマった人は、『マネーの拳』も読んどけ

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『インベスターZ』が今、最高に面白い。

これに共感できる人は、三田紀房しばりで『マネーの拳』も読んでほしい。ハマること間違いない。

スポーツに例えてビジネスをする

『インベスターZ』が投資家の物語であるのに対して、『マネーの拳』はボクシングの元世界チャンピオン花岡拳がビジネスの世界で才覚を現していく、経営者の物語だ。

落ち付け・・・あわてるな。俺にとって3分はとてつもなく長い。じっくり時間をかけて確実に仕留めるんだ。 

これは資産家の塚原会長から出資を受けるか、それとも自力で事業を続けていくか判断を迫られたシーン。拳は、ビジネスの決断に迷ったときにはよくボクシングに例えて思考する。

世界チャンピオンとはいかないまでも、高校や大学で人生の一時期をスポーツに賭けた経験のある社会人なら共感できるのではないだろうか。かくいう僕も、大学時代は「この4年間は人生の縮図だ」と本気で信じてスポーツ1本にのめり込んでいたので、ビジネスをスポーツに例える感覚はわかる。今は熱中する対象が仕事になっただけ。中堅社員になっても、ビジネスをスポーツに例えるというのはよくやる手法だ。

 

起業家やベンチャー企業で働く人に最適

僕は上場10年以内のベンチャー企業で働いているが、『マネーの拳』で拳の会社が通過していく状況は、まさに「あるある」の連続だ。一社員の立場ですらこれなので、創業経営者からしたら「うわーそうだよな!」と感じるシーンばかりではないだろうか。

例として、いくつか名シーンの台詞を解説していこう。

「本物の嘘つきは嘘をつかない」

まず、拳が赤字垂れ流しの居酒屋とは別の新規事業を立ち上げるシーン。出資する塚原会長は「本物の嘘つきは嘘をつかない」という持論を展開する。

これは、成功する起業家は嘘のような、というか今現在ではまるっきり嘘の大言壮語を吐く。しかし、嘘を嘘のまま終わらせず真実に転化するか、さっぱりと何もなかったかのようにリセットしてしまう。こういう見切りの良さと有言実行ができるタイプが起業に向いていると、拳に伝える。

「勉強なんて君らしくないね」

これも前述の塚原会長の台詞だ。勉強して、知識を蓄えてから商売を始めるのでは遅い。走りながら勉強すればいいし、そもそも自分が勉強しなくても周りの人にやらせればいい。

塚原会長が言い切る「商売はカンとセンス」が正しいかどうかは経営者ではない僕には正直なところ実感はないが、勉強や準備を十分にしてから新しいことを始めるのではスピード感がないのは確かだ。これはどんなビジネスにとっても命取りだし、意思決定者が多くて承認プロセスが複雑な大手と比べて身軽なベンチャーの利点を活かさない手はない。

「切羽詰って破れかぶれの行動に出る人間は商売には向かない」

これまた塚原会長の台詞。マンガというものは、1巻に名シーンが固まっていることが多い。ずっと構想を練ってきて「いざ連載!」となったときにやりたいことが満載で序盤に詰め込むという漫画家の心理がそうさせるのだろう。

この突発的な行動をとる人間は経営に向かない、という考えは1巻だけでなく作品全体を通して各エピソードの裏にある重要なメッセージになっている。ビジネスとは理詰めで、ストレスに耐えられなくなり自暴自棄な行動をとる人は経営に向いていないのだと繰り返し語られるエピソードでリアルに感じられた。

「いや、総務のエキスパートとか入ってくると、やりにくくなるなと思ってさ」

自己保身ばかり考えている創業メンバーの1人大林の台詞。 上場前後のベンチャーを経験したひとにとっては、これは最大級の「あるある」ではないだろうか。

上場すると知名度が上がり、売上規模が上がってくると社員数も激増する。そうなれば、必然的に組織は専門分化していく。専門外の仕事でも全てこなしていた上場前メンバーは、もともとの能力の低さに専門性の薄さという経験もあいまって、お払い箱になるのが必定なのである。総務だけでなく、経理、営業、企画、開発、あらゆる分野で大手のシステマチックな環境で育ったエキスパートが入社してくる。

このあたりのシーンは、まさに我が社をみているような錯覚に陥る。何とか専門性をつくって生き残っている人もいるが、すでにドロップアウトした人、これから外されていくだろうなと思われる古株の顔が目に浮かんでくる。無情だが、企業の成長とはそういうものだと感じさせる強い演出が本作品にはちりばめられている。

「ここはまるで赤ちゃんの会社よ!」

大手商社からやってきたバリバリのキャリアウーマン井川の台詞。仕事に私情をはさみまくって周りを混乱に陥れてやまないが、仕事は超絶デキる女として描かれる彼女の中小企業改革は、前述の上場後のエキスパート達の来襲と近いメッセージがある。

他にも同大手商社のM&A担当者もゲーム感覚で仕事を進めたりと、とんでもないキャラが多数登場するのだが、もしかしたら全体を考えたり人のことを思いやる調整力の高い人よりも個人的動機で動く破天荒な人の方がビジネスで大成するのではと思わせる。

その他、花岡拳の名言

「社長から信用されていない。これを誇りに思わなきゃダメだ」、「変化についてこれないものは、そのまえに会社を自ら去っていくでしょう」、「戦わなくなったらその組織は終わりだ。平和になったら企業は死ぬ」、「会社とは、人をいっぱい雇うことだ。一人でも多く雇用し給料を払う。これ以外にない。」など、主人公の拳に関しては『インベスターZ』に負けない名言だらけだ。

最終巻の展開も痺れるが、そこは楽しみとしてとっておいてほしい。

 

12巻で完結

『インベスターZ』にハマった人は確実に楽しめるし、起業家やベンチャー起業で働いている人は身の振り方を学べる『マネーの拳』。最終巻が12巻というサイズ感もちょうどいい。読もうと思えば1日で十分読み切れるのでぜひ。