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子育ては全く意味がない?『言ってはいけない』真実たち

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ひとは幸福になるために生きているけれど、幸福になるようにデザインされているわけではない。

私たちを「デザイン」しているのは誰か?

その答え、「進化と遺伝」が本著のメインテーマである。橘玲の最新作『言ってはいけない』は進化学者ジャレド・ダイアモンドの著作に似た知的興奮が得られ、かつ納得感も持ち合わせた一冊だ。

《目次》

 

恐怖の対象に目を背けてはいけない

子どもの頃、僕はピアノを習っていた。ピアノ教室はお寺の中にあり、毎週通っていた時間帯は夜の18時頃。ひとりで自転車で通っていて、街灯のない田舎だったので練習が終わって帰る頃には辺りは真っ暗。

小学生の僕は暗闇が怖くて怖くてたまらなかった。誰かが後ろから追いかけているのではないか?という疑念が頭から離れない。想像すればするほど、追いかけてくる音までも聞こえてきて、恐怖が増幅していく。

しだいに恐怖に耐えきれなくなって、ついに勇気を降り絞って振り返る。すると、そこには誰もいない。恐怖は一気に霧散し、恐ろしい足音も聞こえなくなった。

この原体験から、大人になった僕は「怖いことに目を背けてはダメだ。恐怖の対象に正面から向き合ってこそ、突破口が見つかる」ということを1つの信条にしてきた。スポーツや仕事で壁にぶつかったとき、その壁を直視して分析するところから全ては始まる。一人の人間が生きていく上で、これほど重要なコツは他にないのではないかと今でも思っている。

幽霊は真実ではなかったが、『言ってはいけない』に書かれていることは全てエビデンスに基づいた真実である。恐怖に目を背けてはいけない。恐怖心は思考を停止させてしまう。たとえ不都合であっても、真実を知って向き合うことから思考は回りだす。

 

「ひとのこころ」は行動経済学と進化論との共通項

現代の進化論は、コンピュータなどテクノロジーの急速な発展に支えられ、分子遺伝学、脳科学、ゲーム理論、複雑系などの「新しい知」と融合して、人文科学・社会科学を根底から書き換えようとしている。

ゲーム理論などの本を書いてきた橘玲。行動経済学と進化や遺伝は何の関係もないように思えるが、それらは「ひとのこころ」という共通項で結ばれている。

 

「利己的な遺伝子」に導かれる真実たち

リチャード・ドーキンスは、ヒトを含むすべての生き物は「後世により多くの遺伝情報を引き継ぐように進化の過程で最適化された“遺伝子の乗り物(ヴィークル)”」だと述べた。

本著には、遺伝がどれほど私たちを特徴付けているかの例が多く載っている。「すべてが遺伝で決まるのなら、努力は無駄になってしまう。それでは頑張っているひとが可哀想だ」ときれいごとを言うのは勝手だが、そういうひとは真実に向き合わずに勘違いしたまま人生を浪費するのが関の山だ。

例えば「やせた親からはやせた子どもが生まれる」は抵抗がなくても、「太った親からは太った子どもが生まれる」には引っかかりを覚える。「親が陽気なら子どもも明るい性格に育つ」は納得できるが、「親が陰鬱だと子どもも暗い性格に育つ」には抵抗がある。しかし、これらは全て真実なのだ。

ここまでは序の口で、以下のような衝撃な例も数字とともに書かれている。

  • 論理的推論能力の遺伝率は68%。一般知能(IQ)の遺伝率は77%。つまり知能の違いは7〜8割は遺伝で説明できる。
  • 白人と黒人とのあいだにはおよそ1標準偏差(白人の平均を100とすると黒人は85)のIQの差がある。ちなみにアジア系アメリカ人は白人よりIQが高いらしい(日本人としては好感の持てるデータ)
  • 統合失調症と双極性障害(躁うつ病)の遺伝率は80%を超えている。
  • 犯罪心理学でサイコパスに分類される子どもの遺伝率は81%。つまり凶悪犯罪は遺伝するということ。
  • 「見た目」で人生は決まる。美形の男性は並の男性より4%収入が多い。女性の場合、美貌のプレミアムは男の倍で8%。容姿の劣る男性の場合は、平均的な男性に比べて13%も収入が少ない。女性の場合は4%なので、醜さへのペナルティは男性は女性の3倍以上にもなる。

 

「顔の幅の広さ」のビジネスへの影響

ほかにも、ウィスコンシン大学のチームによる調査で、フォーチュン500の企業の男性CEO55人の写真を調べてみたところ、顔の長さに対して幅の広いCEOのほうが会社の収益が高いことがわかったらしい。これを読んで、痩せ形の僕は食事量を増やして少しでも顔を幅広にしようかと思ったぐらいだが、顔が広いこととビジネスの決断で思い切りが良いことは確かに相関するようだが、前者を強制的に変えても後者は連動して変わりはしないという真実にも気づいて考えを改めた。

しかし、大人びた顔であれば銀行の窓口業務ではなく融資に業務分担される傾向が高く、収入も増えやすいというあからさまな傾向もあることにはある。一方で、童顔であれば犯罪を犯したときに無罪になりやすい(とんでもないことだが事実)。どちらが良いかはあなた次第だが、整形でもしない限り生まれ持った顔は変えられないし、ただの「傾向」では整形するほどのモチベーションにはならない。

 

人間の性と進化

「女性はなぜエクスタシーで叫ぶのか?」という一節も面白い。あまりに過激な仮説なので詳しくは書かないが、人間の性と進化に関する記述はジャレド・ダイアモンド『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』と合わせて読むと理解が深まるだろう。

inyoshoten.hatenablog.com

 

「再貧困女子」は知能障害が原因

直接的ではないが、遺伝で説明できる現代社会の傾向も多々ある。再貧困女子はその1つだ。彼女たちの貧困は知能障害が原因で、収入の良い仕事につけないことに端を発していることが多い。知能の格差が、経済格差につながっているのだ。

身体を売ろうとしても、供給が過多であるため市場原理によって安く買いたたかれてしまう。10年前とは違い、売りだけでは普通のフリーターと大して変わらない収入しか得られない世の中になっているのだ。値崩れはこれからも続くだろう。

 

子育ては全く意味がなく、「遺伝」と「非共有環境」によって「わたし」になる

本著で最も衝撃的だったのが、純粋な家庭での子育ては全く意味がないという、確かなエビデンスに基づいた真実だ。ジュディス・リッチ・ハリスという在野の女性心理学者の調査を引用しながら語られている。

ハリスは子育て、つまり「共有環境」を重視する考え方を「科学的根拠のないイデオロギー」として退ける。彼女の調査では、「わたし」が形成される要素は「遺伝」と「非共有環境」つまり家庭の外の環境の2つのみだという。

つまり親が子どもにできることは、子どもが誰とつきあうか、友達選びだけということだ。子どもは生存戦略として、周囲の友達たちの中で一番になれそうな分野を見つけて、キャラを立たせようとする。「周りの友達を選ぶ」という観点では、小学生から私立の有名校に入れた方が良さそうだが、周りが頭が良すぎて落ちこぼれるリスクもあることも忘れてはいけない。

しかし、田舎で少人数の学校で育ててしまうと勉強がたとえできたとしても井の中の蛙で終わるという、もう一方のリスクがある。つまり、両親2人の頭の良さから推定してバランスのとれた学校に子どもを入れるという手が1つの良い選択肢になりそうだ。

真実を知るところから、全ては始まる。子育てに関しては、ほとんどの親たちは方針を考えなおした方が良さそうだ。